お祭りの日
お祭りの日
誰もいなかった。
大人だけが楽しむお祭りがあると思っていた。でもそこには誰もいなかった。
少年の家の近くにある亀田八幡宮では毎年9月中旬にお祭りが行われる。少年はお祭りが好きだった。
たこ焼き、お好み焼き、おでん、かき氷、わたあめ、赤色何号か知らないけど着色料たっぷりの真っ赤なりんごあめ。お祭りには楽しいものがいっぱいあった。
わたあめを買っても、もったいなくて毎日少しずつ食べていたらいつの間にか茶色くて固いかたまりに変わったりもした。わたあめなんてふわふわしてるけど要するに砂糖だ。
少し考えればいらないとわかるのにドラえもんのお面を買ったりもした。何に使うんだ。
楽しくて仕方なかったお祭りも実は大人の思うように搾取されていただけなのかもしれない。
お祭りからは夜9時までに帰らなくてはいけない決まりがあった。
9時に帰った後で何が行われているのか少年には知る由もなかったのだが、きっと大人だけでお祭りの続きが夜通し行われていると信じていた。
屋台は24時間営業していて、深夜になると特別なメニューが登場する。大人だけのイベントがあって何なのかはわからないけどものすごく楽しいことが行われている。そう信じていた。
いつか自分が大人になったら参加するのだ。そう少年は夢見ていたのだ。
十数年の時が流れしばらく地元を離れていた少年は戻ってきた。少年は大人になった。鼻毛に白髪が混じるくらい大人になった。濃い色の食べ物を見ると着色料に赤色2号とか使っているんだろうななどと思ってしまうくらいの大人になった。
深夜徘徊もするくらいの大人だ。東京で深夜に居酒屋の土間土間に一人で行って、何名様ですかと聞かれて一人ですと答えると店員さんがちょっとあわててテーブル席に案内してくれる、しかも酒は飲まないでスマートに緑茶を注文する、そんなことができるくらいの大人だ。
もうお祭りから夜9時で帰る必要もないのだ。
そして今年もまたお祭りの季節が来た。
深夜に楽しいことが行われている。想像もつかない何か楽しいことが行われているのだ。それを見に行くことができる。
深夜にお祭り会場に行き、そこで何が起きているのかこの目でしっかりと確認するのだ。
300円のお小遣いを持った昔の少年は夜11時に亀田八幡宮へ向かった。ずっと知りたかったお祭りの真相がそこにある。
真っ暗だ。
誰もいない。
不良とかもいない。
うん。深夜の大人だけのイベントなんかなかった。24時間営業とかない。セイコーマートだって0時で閉まるんだから少し考えればわかるじゃないか。だいたい深夜に屋台に行く人なんかいないから商売成り立たないしな。
ちなみに翌日も少し早めに夜10時ころにいってみたら、解体作業をしてた。夜9時までに帰れっていう決まりは、9時で店が閉まるからもう帰れっていう意味だった。
結局お小遣いを使うこともなく、2日に渡りただ深夜徘徊しただけの形となった。来年は早い時間に行ってわたあめでも食べよう。